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サクラのエリコ 第九話「エキサイティング・ワンダーランド」 

「ねえちょっぱ~マクドいこうよ~」


「いい加減マックって言いなさいよ」


「関東に魂はうらねえ~」


関西出身のエリコは、マクドナルドの事を「マック」ではなく「マクド」と略す。関東弁で話してはいても、その辺は変えないのが関西人の魂らしい。


「ダイエット中だからいかない!」


「いまさらどこの肉落とすのさ」


「TVとか舞台女優はね、画面で見るよりずっと細いのよ。私なんかまだまだ太いほうなのよ」


「ちょっぱの場合贅肉じゃなくて全部筋肉じゃなry」


ぺチン、とエリコの頭を叩くとカスミは歩き出した。


「あーんちょっぱがぶったー!慶一郎、仕返しして来い!」


「ふざけんな、オレが殺される」


「ってちょっぱ~どこ行くの?駅あっちだよ」


「歩いて帰る!」


「ぇええええ」


「さすが姉さん、気合が違うぜ」


新宿からカスミの住む大久保までは歩いて帰れない距離ではない。しかし歩いて帰るにはちょっと辛い微妙な距離である。
もう家に帰れない理由はないのだが、未だにカスミの家に居候中のエリコ。というよりカスミの演技練習につき合わされ、そのまま泊まるというパターンが続いているのだが。


慶一郎はいつもカスミとエリコを送ってから帰宅する。サクラのバイトより彼女達のボディーガードが本職なのだ。
カスミにボディーガードなんて必要あるのか、という疑問を抱きながらも従順に役目を全うしている。ほんとはすごく真面目な少年なのかもしれない。

いつもはマンションの前まで送って帰るのだが、最近は彼まで演技練習につき合わされている。
エリコは露骨に嫌がるが、慶一郎はまんざらでもないようだ。

でも最終的にはカスミの手料理に満足して二人ともご機嫌で一日を追える。


そんな日を繰り返していたら、エリコがちょっと痩せた。

なんであんたが痩せるのよ!とカスミに怒られたが、普段運動してないエリコが毎日ウォーキングに付き合っていたのだから仕方がない。

ある日カスミが帰宅すると、一通の手紙が届いていた。

「見城秋作品・映画化実行委員会」

一次審査の結果通知だ。
しかし中を見なくても結果はわかった。一次審査落選者には通知が送られることはないからだ。


「やったじゃんちょっぱ!」


「まぁ、まだスタートラインに立ったにすぎないわよ」


冷静に封を明け、中身を確認するカスミ。お決まりの文章で合格の謝辞と二次審査の説明が書かれている。
言葉で言ったとおり、彼女はこれくらいで浮かれてはいないようだ。


それから数日、カスミの演技練習とダイエットに拍車がかかった。
あんまり食べないものだから、少し心配になったが、そこは料理上手なカスミは
しっかり栄養バランスを考えた食事をしていた。

自己管理が上手な人ってすばらしい、とエリコは思った。


相変わらずのカスミ宅に居候生活が続くわけだが、
エリコは、早く女優になって新宿とか渋谷とかに引っ越してくれないかとつくづく思う。
前にも言ったかもしれないが、カスミのマンションは大久保通りからちょっと反れたところにある。
外国人ばかりが住まう区画にあるため、隣に誰が、どこの国の人が住んでいるかわからない。
人通りも少ないため、エリコは一人で夜に近辺を歩くのをためらってしまう。
今はケンカバカの慶一郎や、闘犬よりも強いカスミと常に行動を共にしているから
危険に遭遇したことはないが
(何度かあったが、すべて二人がなかった事にしてくれた)
やはり女子としてどうかと思う。

19歳の乙女がアンタッチャブルな地区に一人暮らしなんて何かが間違ってる。

・・・でもマクドナルドが近いからちょっといいと内心思っている。




今日も残業を笑顔で断り、アルバイトから帰宅途中に新宿の地下街でタピオカ入りのグリーンアップルティーを買う。
こればっかりはカスミも付き合ってくれるのだが、慶一郎はタピオカをいまだに白玉だと思っているらしい。
地下街から再び地上に上がり、アルタ前を抜け御滝橋通りへ。
今日はエリコの突然の「モンハンやりたい」発言で、ブックオフ、大久保駅近くのゲームショップを梯子する。
赤い新型のPSPとモンハンのソフトを買ったエリコはご満悦。
大久保通りと、御滝橋通りの交差点の角のスーパーで、
カスミが買い物している間もずっと説明書を読みふけっていた。

「なんだよそれ」
「モンハン」
「だからなんなんだよそれ」

世の中の流行などからは無縁な慶一郎が、このゲームを知ってるはずもない。
PSPの事も、新型の音楽を再生する機械だと思い込んでいる。

「あのね、剣とか振り回してでっかい恐竜狩るの」
「???MDじゃねえのそれ?」
「いつの時代の人間だよアンタ」

「はいはい、あんたら荷物もってー」

買い物を終えたカスミが大きなビニール袋を抱えて店から出てきた。

「ウィッス!姉さん!」

炊事をまったくしないエリコは、最近食費をカスミに納金し始めた。
外食するよりやすく済むし、なにより旨い。
カスミも料理がストレス解消なので、文句ひとつ言わずに毎日せっせと作ってくれる。
カスミが自炊するのは、ダイエットには自己カロリーコントロールが一番だと分かっているからなのだが。

三人がブラブラとマンションに向かう道筋を歩いていると、大久保駅前の喫茶店からあからさまに堅気の人ではない自営業の人が出てきた。
テカテカのオールバックに派手なスーツ。
中に着たさらに派手なシャツはへそが見えるのではないかと思えるくらいボタンを開けている。

「あ、阿部のアニキだ」

慶一郎が珍しく嬉しそうな顔で、子供のように手を振る。

「安部のアニキー!」

「お、慶坊じゃねえか」

慶一郎のアニキということは予想通りそっちのラインに属する人なわけだが、何か雰囲気がおかしい。
ヤのつく会社員に間違いはないのだが・・・
近づいてよく見るとすぐにその違和感の理由がわかった。

顔にまったくの迫力がない。
無理に睨みを聞かせた目つきをしているので、むしろ滑稽に見える。

「どうしたんすか安部のアニキ、こんなとこで?」

「ちょうどよかったぜ慶坊、お?エリコちゃんとカスミちゃんかい」

無理やり作ったかのような笑顔で笑いかけられ、エリコとカスミは噴出しそうになったが
オトナの自制心で耐えた。

「こんにちはー初めまして」

エリコとカスミは声をそろえて挨拶をした。

「いや、二人とも初対面じゃないんだけどなー」

アニキはザンネンそうに笑顔を引きつらせた。

「あれ?そうでしたっけ?」

「鮫島の親父のお供でいっつもエリコちゃんの店に行ってたんだけどなー」

「あれれ?あ、ああそういえば」

明らかに覚えていないのだが、そこは再びオトナのパワーで乗り切る。

「私は・・・どこでお会いしましたっけ?」

カスミは普段、ヤのつく地域自警団と関わりがないため、まったく覚えがない。

「ほらほら、エリコちゃんがさらわれた時さ、君がマリアンヌに乗り込んできたとき対応したじゃない」

「あはは、すいません覚えてないです」

「・・・そっかーだよねー、俺影薄いからねー」

「お、おまえら失礼だぞ。この人はな、鮫島組の若頭・安部さんだ」

「安部サダハル(33)って言いまーす、安部ちゃんって呼んでね」

存在感のない顔なのを自覚しているのか、無理に明るくかわいく印象付けようとしているのが見えた。


「で、なにが丁度よかったんすか?」

「ああ、どうもな。ちょっとヤバイやつが刑務所から脱獄したらしいって噂なんだ」

安部ちゃんは周りを気にしながら、小声でそういった。

「またまた~警察がボンクラだからって今の日本で刑務所脱獄するやつなんているわけないじゃないっすか」

「いやまあそうなんだけどな。警察筋もしらばっくれてやがるしよ、情報の出所がどうもあやふやなんで確認してるところなんだけどよ」

「でも俺となんの関係が?」

「うん、鮫島の親父がな、嘘かホントかわかるまでエリコちゃんとカスミちゃんをしっかりボディーガードするようにお前にハッパかけてこいってな」

「え、もしかしてこの辺に?」

「ああ、潜伏してるって話しさ」

「まさか~」

「いやいや、このヘンは隠れるにはもってこいだしな。マンションの隣がどこの国のヤツかもわからんところだしよぅ」

十分気をつけろ、何かあればすぐに連絡しろよ、と言い残して安部はタクシーを拾い、新宿方面へ消えていった。


まあ。
カスミと慶一郎が一緒ならショッカーの怪人に襲われてもなんともない。
しかしワンダーランド大久保、脱獄犯が潜伏なんてエキサイティングすぎる。

過去にも夜中に銃声を聞いたり、ドラマでしか見たことなかったお巡りさんの全
力疾走見たりとか話題に困らない町だ。




大久保通りの繁華街を抜け、ラブホテル街のさらに奥。
夜になるとアジア系の外国人女性が道行く男に声を掛けている。


「マッサージイカガッスカ」


女連れの慶一郎にも平気で声を掛けてくる。


ラブホテル街を抜けるとさすがに人通りもまばらになるせいか、声を掛けてくる女性もしつこく食い下がってくる。


「うざってえなあ」


「しょうがない、行ってきてあげなよ慶ちゃん」


「いかねえょ」


カスミの家に辿り着くまでに、5回ほど声を掛けられた。


「いい加減引越しなよ~」


「だってここ家賃安いんだもん」


カスミのマンションは家賃の割りに部屋が広く綺麗だ。
ただ、稀に夜中に外国語で怒鳴り声がしたりする。


「もしかしてお隣に脱走犯潜伏してたりしてね」


「まさか、ドラマじゃあるまいし」


しかし前に一度、隣の外国人の部屋に警察が突入していたことがあったのであな
がち想像できないこともない。
確かにオートロックではないの誰でも敷地内に入り放題だが、昨年末にカスミが
下着泥棒を半殺しにしてからめっきり不審者は少なくなった。

ここに住んでる住民が、カスミの事を密かに「用心棒」と呼んでることを彼女本
人は知らない。



カスミの部屋はいつもきちんと整頓されている。
特に整理整頓に関して神経質なわけではないのだが、単に掃除が好きらしい。む
しゃくしゃするとすぐ模様替えをするので、エリコも居候させてもらってから幾
度となく手伝わされた。


「さーて飯作るかー」


「うわーいおかあさんありがとおー」


「ご飯終わったら練習ね」


「うわーん」


「あ、姉さん、携帯の充電借りていいっすか?」


「いいわよ~」


慶一郎は最初、若い女性の部屋に戸惑っていたが、今ではすっかり慣れたようだ




「そういえば慶ちゃん、最近携帯でメールしてる?」


「おう、もう絵文字も使えるようになったぜ」


「でも誰とメールしてんの?」


「…鮫島の親父」


腹をかかえて笑いこげるエリコ。鮫島と慶一郎がメールのやり取りをしているな
んて想像しただけで笑える。


ブブブ、ブブブ


充電器に接続され、生き返った慶一郎の携帯が、電源の切れていた間に溜まって
いたメールを受信し始める。


「なんだ?」


受信箱
X月X日 17:58
送信者:おやじ
件名:殺すぞコラ


X月X日 17:57
送信者:おやじ
件名:どこふらついとんじゃ!


X月X日 17:55
送信者:おやじ
件名:電話に電解


X月X日 17:48
送信者:おやじ
件名:Re:休みください


「キャー」


大量に鮫島から送られてきていたメールを見て、慶一郎は悲鳴を上げた。
途中で変換を間違っていたり(電話にでんかい?)、件名に用件を入れたりなど、
鮫島がイライラしているのが見て取れた。

留守電:13件


「どどど、どうしよう、殺される、殺されてしまう俺」


「えらい勢いで電話してきてるみたいねえ、とりあえず留守電聞いてみたら?」


慶一郎は震える手で留守電預かりにかけた。再生すると、隣にいるエリコでもは
っきりと内容がわかるくらいの怒声で鮫島からのメッセージが携帯を震わせた。


一通りメッセージを聞き終わった慶一郎は五歳くらい老けているように見えた。


ブブブブブブブ


携帯をきったとたん着信が鳴る。

着信:おやじ


「ガクガクブルブル」


「でなきゃ本気で殺されるよ」


涙目で助けを訴える慶一郎の肩を軽薄に叩くエリコ。


「も、もしもし」


X△□◎X△□◎!!


携帯の向こう側で雷鳴でも轟いているかのような、鮫島の怒声が慶一郎の鼓膜を
貫通した。


「すいません、すいません、充電が…ほんとすいません」


仕方ないなあ、と電話を代われというジェスチャーをするエリコ。
慶一郎は震える子犬のような目をしながら携帯を手渡した。


「もしもしぱっぱー?」


「おお、エリコちゃんか?」


「ごめんね~さっき私の携帯電池切れちゃってさ。慶ちゃんの携帯借りてたら電
池切らしちゃったの」


「なんだそういうことかい、そうかそうか。もう家に帰ったのかい?」


「うん、今もうカスミんちだよー」


「そんならいいんだ。ちょっと慶一郎の馬鹿に代わってくんな」


「はーい!またご飯つれてってねぱぱん♪」


ホラヨ、と携帯を渡すと慶一郎はエリコさまグッジョブ、と親指を立てた。


「もしもし、はい、はい、ああ、その話なら知ってます。さっき安部のアニキから聞きました。ええ!?冗談でしょ?まじっすか??はい、はい、わかりました…失礼します…」


とりあえず鮫島の怒りがおさまったことに安心したが、怪訝な顔で通話を終えた
慶一郎。


「どしたの?」


「まじで大久保に潜伏してるらしい」


「何が?」

「何がってさっき阿部さんが言ってた脱獄犯だよ」

「阿部さんって誰だっけ」

「もう忘れたのかよ。あの人存在感薄いの気にしてるから傷つくぞ」


「でもホントならニュースとかでやっててもいいけどねえ?」


「さっきからテレビはつけっぱなしだが、その関連のニュースは一切報道されていない」


「隣の空き部屋借りたんだと…」


「は?」


「脱獄犯つかまるまで、おまえらのボディーガード24時間体制でやれって。隣
の空き部屋急遽借りたから今日からそこに住めってさ…」


「ハァー!?」


今日起こった事件に対しての対応。ということは、ここ数時間で隣の空き部屋を
確保したのだろう。通常ありえないが、鮫島がマンションの管理会社にどれほど
圧力を掛けたのかは想像したくはなかった。


30分ほどして、カスミの料理が出来上がった頃に鮫島組の若い衆(この間結花に
巻き込まれたチンピラ)が隣の鍵と寝袋を届けに来た。
どうやら本気らしい。



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コメント

おっと、ゴメンナサイ!!
何処だか分からないですよね~
第九章の↓ココです!
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平日でも人通りの多い大久保に人が少ない。

様々な言葉が飛びかう雑踏も今日は心なしかおとなしい。

が書かれている。
言葉で言ったとおり、彼女はこれくらいで浮かれてはいないようだ。

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