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サクラのエリコ 第一話「未成年」 小説清書Ver

第一話「未成年」   


「冗談じゃねえよまったく!」


窓の無い、コンクリートの壁に包まれたオフィス。
男の怒声は吸収されることなく、ダイレクトに耳に響いた。


「いーじゃんバレなきゃ問題ないっしょ」


文字通り耳がイタイ、といった顔で男にカウンターを合わせるようにエリコは言い返した。
髪のセットもしていないまま呼び出されたために、こちらも機嫌がわるい。


「バレたら洒落になんねえだろうが!」



キャバクラ「クリステン」
歌舞伎町でもそこそこ名の知れた店でのやりとり。
週に何度かは、営業時間前にこのように勤務態度の悪いキャバ嬢とマネージャーとのやり取りがある。
しかし今日は少し様子が違う。
エリコは他のキャバ嬢に比べて比較的まじめな方だった。


「一年ばれなかったんだから後2年ぐらいいけるって」


「ふざけんな!未成年雇ってたなんて表に出てみろ、店は営業停止どころじゃ済まないんだぞ!」


言い返す言葉もない。
しかしそれを顔に出すのも癪なエリコは、ふてくされたまま髪をいじるフリをするしかなかった。


「お前がのおかげで店の売り上げが上がったのはありがたいけどな、営業停止くらっちゃ従業員一同路頭に迷うんだよ」


「あーマネージャー子供できたばっかだもんね~、店のNo3ハラませてよく追い込まれなかったよね」

 
軽口を叩くとケタケタと笑うエリコ。
笑うとあどけない表情が八重歯と一緒にチラリと覗く。


「とにかく今日でクビだ」


エリコの無邪気な笑い声が癇に障ったのか、マネージャーは冷たく言い放った。


「ええええ~!ちょっと困るっての!明日からあたし生活どうすりゃいいのさ!」


「お前をこのまま雇ってたらこっちの生活が危ういんだよ!」


マネージャーはそういって金庫から封筒を取り出すと、困惑するエリコの前に差し出した。
今月の今日までの給料。かなり分厚いその封筒は彼女への引導も同然だった。
しっかり金額を計算して準備していたという事は、エリコを呼び出した時点で彼女を解雇する事は決定していたようだ。


「ぇえ~まじで~」




まったくもって不条理な世の中だ。


その辺の大人ぶっているOLよりたくさんの男を騙してきた。
中途半端なキャリアウーマンよりもずっと多くの貯金もある。
親の顔も憶えていない。
死にかけた事も、殺されかけた事も、出会いも別れも逃亡も。
結婚はまだだけど普通にノホホンと生きてる女よりずっと色んな経験をしてきた。


なのに16年しか生きていないと言うだけで未成年扱いだ。
未熟な成年、成年と呼ぶには未熟。
本来は子供を大人が守るために作られた言葉だ。

しかし彼女には、それが足枷でしかなかった。
ろくな大人なんていやしない。

大人が大人としての責任を果たしていない世の中で、未成年が大人の代わりをする事のなにが悪いのか。





「あ~らエリコちゃんすっぴんでどうしたの?」


クリステンのNo2、智花が、鼻から抜けたような声でエリコを呼び止めた。
10歳も年下のエリコ営業成績を一度も抜いたことがない。
No2まで昇りつめたのも、自分より上にいるものを蹴落としてきた結果だった。
美しくなろうという意識を糧にするより、妬み嫉みを力に生きている根性の曲がった女だ。

嫌なやつと出くわした。ここを首になる唯一前向きな感想は、毎日こいつと顔を合わせずに済む事だ。
エリコはシカトして出口への階段に脚をかける。
智花はすれ違いざま、フフン、と鼻で笑いながら言った。


「ガキが調子にのるからよ」


この店で私が未成年だって知ってる、いや知ったのはマネージャーだけのはず。
…こいつがどこからか情報を手に入れてマネージャーにチクったのか。
エリコの胸に沸々と怒りが湧き出した。

「あんたがチクったのね・・・」


「こんなところで男に媚びてないで、高校の願書でもだしてきたら?」


そう言うと智花はアハハハと笑った。

普段客の前で見せる甘くて軽い愛想笑いではない。
他人を貶める事に快感を覚えた時の下衆な笑いだ。


パキャ。


それがエリコの頭の線が切れた音だったか、小さなコブシが智花の顔面にクリティカルヒットした音かどうかは覚えていない。
今日に限って大きめのリングをはめていた右手は簡単に智花の鼻骨を砕いた。








後の事はよく覚えていない。
ガッシャンガラガラと智花がもんどりうって倒れ、うーうーとうめき声を上げていたこと、
自分のコブシをみて思わず

うをっ

っと叫びそうになるくらい血がついていたことだけ覚えている。


16にして結構な修羅場をくぐってきた経験からか、エリコは反射的に店を飛び出していた。
血を見たらとりあえずダッシュ。
それ以上殴り続けるのは猿のやることだ、と昔付き合っていたチンピラに教わった。
あいつとは散々な思い出しかないけれど、この教訓を今まで守ってきて失敗はなかった。


「やっべー!ちょうやべー!」


ほんっと不条理だ。


悪を成敗した正義のヒロインが走って逃げることになろうとは。


夕暮れの歌舞伎町の流れとは逆にエリコは走り出した。
空には異常な速さのカラスが東に向かって飛んでいったが、彼女にはそれを気に止める余裕もなかった。






「まじやべえわ~」


とりあえず全力で新宿駅まで走ったエリコ。
中学時代、唯一まじめにバスケに打ち込んでいたのがこんなところで役にたった。
しかしこのまままっすぐマンションに帰るのもまずい。
警察に通報されていたら真っ先におまわりさんが来るだろう。
エリコは、とりあえず親友のカスミに助けを求めることにした。
彼女なら何も言わずにかくまってくれるだろう。

エリコはありったけのストラップを付けた携帯をバッグから取り出し、フリップを開いた。


着信アリ。


マネージャー 16:32 30秒
マネージャー 16:33 30秒
マネージャー 16:34 30秒
マネージャー 16:35 30秒
075881XXXXXX 16:35 02秒
マネージャー 16:36 30秒


何かの呪いのように留守電に切り替わるまでガンガンにかかってきた様子が伺える。


...間を挟んで1回だけワンギリがあったのが悩ましい。


これはちょっと本気で雲隠れしなければ... 慣れた手つきでカスミの電話番号を探し出す。
私用の携帯の通話履歴はほとんどカスミなので呼び出すのは簡単だ。


トゥルルル…


「もしもーし」


「カスミ?エリコだけど~!」


息を弾ませて早口で話すエリコ。


「ただいまバイト中でぇ~す、御用の方は...」


電話の向こうでは過去のカスミが、現在の彼女が不在であることを告げる。
留守電に話しかけてしまった恥ずかしさ。
誰に向って恥らうわけでもないが、エリコは思わず通話を終了した。
彼女ははあまり留守電が好きではない。
なぜかと聞かれると、なぜだろうとしか答えられない。

好きじゃないものは好きじゃない。

次なる手段、とばかりに恐ろしく早い指使いでメールを作成するエリコ。

=======================
緊急!タスケレー(;´Д`)   

byエリコさま
=======================

律儀なカスミならメールに気がつけばすぐに返事をくれるだろう。
そういえば今日は木曜、最近始めたバイトが入ってると言っていた気がする。
カスミのバイトは22時頃までだったはず。
なんだか怪しいバイトを始めたと先日話していた。

とりあえずカスミから返事がくるまで個室のあるマンガ喫茶で身を隠すことにした。。




ワン○ースの新刊でてたっけなあ。

エリコは早足で東口方面へ向った。








エリコはホストのキャッチをかわしつつ、漫喫にたどり着いた。
22時までの数時間、がっつり漫画を読むつもりで3時間お得パックを頼む。
そういえばココ最近漫画を読んでいない。
昼夜逆転の仕事になってから余裕がなかったな、と暗い階段を昇りながら思った。

運よくお目当ての海賊漫画は誰も読んでおらず、本棚で次の読み手を待っていた。
こんなに新刊でてたのか!
とエリコは5冊ほど鷲づかみにし、個室に立てこもることにした。
むやみに豪勢なソファーに体を沈め、フーッとため息を付く。
ああ、ドリンクバー…と思うと同時に跳ね起きる。
半分以上氷の入ったコーラを準備すると、今度こそとばかりにソファーに飛び込んだ。


...ゾ〇かっけ~
一冊、二冊とむさぼるように読むエリコ。 もともとマンガは大好きだ。
ふと時計を見ると19時を過ぎていた、この調子じゃ22時なんてすぐだろう。
再びマンガに目を戻すと、突然ブブブブ、ブブブブ、と携帯が震えた。。
マナーモードにしてあるものの、バイブが振動する度にありったけのストラップがジャジャジャジャ、とテーブルを激しく叩く。

着信音より耳障りだ。


一瞬ビクッとなりながら虫を叩くようにバシッと携帯を掴む。


カスミか?

=========================
件名:今すぐ会えますか?

本文
主人が単身赴任で寂しい思いをしています。
だめだと解っていても体の疼きを止められなくて...
大人の関係で会えませんか?
http:xxxxxxxxxxxxx

=========================

死ねばいいのに。
と言う意味の篭った舌打ちをすると、携帯をバッグに放り込んだ。
出会い系サイトの迷惑メールは本当にうざい。
明らかに男性向けのメールが平然と女の園に飛んでくる。
どんな奴がこんなメールを打ってるんだろう?
こんな事をして儲かるんだろうか?
そんな疑問が浮かんだが、すぐに漫画の続きに掻き消された。

=====小説版清書ここまで(2008/3/2)==========

ようやく22時になる頃には、エリコの目の前に漫画の山ができていた。
読んだらすぐ元の場所に戻さない、デフォルトでマナーなど彼女の常識にはセットされていないようだった。


ムモモモモ、ムモモモモ、カバンの中でくぐもったバイブ音が響く。


今度こそカスミでありますように、と携帯を開く。彼女のド○モのP902のワンタッチ開閉ボタンは、押しすぎて戻ってこなくなっている。


着信:千早香澄


「もしもし?チョッパ?」

チョッパ、とはカスミのニックネームである。

千早(ちはや)という苗字と、行動が早いことから付いたらしい。


「おーエリコーごめーん今バイト終わった!どしたんさ?」


「ちょーマジ最悪なんですけど!」


携帯通話は店外で、という漫喫の常識を無視してエリコは事情を話し始めた。





「ギャハハハ!やるじゃんエリコ!」


「笑い事じゃないっつーの、カブキ街で指名手配とかマジ洒落になんないし!」

「武闘派だよね~w」


「というわけでさ~しばらくかくまってくんない?」

「おっけえおっけえ、今どこよ?」


さすがチョッパ、即答快諾。
天使のような子だわ、ウルウル。


以前彼女が地方から東京に出てきた時、エリコの家にしばらく居候していたことがあった。
今度は逆の立場になるわけだ。
エリコにとって何の気兼ねもせずに一緒にいられる「親友」と呼べるのはは彼女くらいだった。




新宿駅西口のファーストフードでカスミと待ち合わせする事にしたエリコ。


空腹だったがコーラだけしか注文しなかった。


お金がなかったわけではない。


新宿の有名店でまがりなりにも一年間No1だったのだ、小さなマンションくらいなら買える貯金はある。

ブランド品など、仕事で使う最低限のものくらいしか興味がない。


「大量生産された女」


ブランド品で着飾るとそういう人種になってしまいそうで嫌いだった。


他にホストに狂うわけでもない、金のかかる趣味があるわけでもない。


貯金の残高が増えるのも当たり前だ。


それに空腹を我慢したのにはちょっとした期待があったからだった。



程なくしてカスミがやってきた。ちょっと走ったのか少し息が乱れている。


「ごっめ~んエリコ!待った?」


全然待ってないのに走ってきてくれたなんてホントにいい子だ、
とエリコはカスミを抱きしめたい衝動に駆られた。

「あ~んちょっぱ~ん」

「はいはいエリコイイコエリコ」


カスミがエリコを慰める時のおきまりの台詞。


カスミはエリコより3つ年上なせいか、なんだか甘えたくなる魅力があった。




「も~聞いてよ~」


「と、その前にあんたこんなとこにいていいの?」

「あ」


「もう、取りあえずうちきな~、しばらくかくまってやっから。飯食った?」

「まだー!!!」


待ってました、とばかりにエリコは満面の笑みで答えた。


空腹なのにコーラしか注文しなかったのはこれを期待していたからだ。
カスミは料理が非常に上手く、エリコは彼女の家にお呼ばれするのを非常に楽しみにしていた。




24時間営業のスーパーで軽く食材を買い込み、二人は大久保にあるカスミのマンションへ向かった。


ハングル文字や、やたらと漢字の多い看板の溢れた繁華街を抜け、ホテル街のさらに奥にカスミのマンションはある。


夜中にあまり一人歩きしたくない場所だが、カスミはなんとも思っていないようだ。
それもそのはず、カスミはモデルのような華奢な体からは想像もできないほどケンカが強い。
夜道で暴漢に襲われたところで返り討ちにするだろう。





エリコは彼女と初めて出会った時、それを目の当たりにしている。


暴力的な元カレとの別れ話のもつれから、路上でそいつに殴られていた時にカスミは現れた。


自分より遥かに体格のいい男を、ものの数秒で失神させたのである。


その日地方から出てきたばかりで行き所のなかった彼女を、エリコは即自分のマンションに招きいれた。
その晩二人で飲み明かし、がっつり意気投合したのは言うまでもない。

エリコはその時から彼女に恩を感じているし、
カスミもそのまま約半年居候させてもらった恩を忘れていない。


居候している間、エリコが男を一切部屋に入れなかった事もカスミは知っている。
(それを知っていたから半年で自分でマンションを借りたのだが)




カスミのマンションにつくと、数分で部屋いっぱいにいい香りが広がり始める。


カスミの料理の手際のよさは絶対に真似ができないとエリコは思う。


「いただきま!」


す、を言う前に箸を伸ばすエリコ。うまいうまいと料理をどんどん口に運ぶ。


「ほんっとうまそうに食ってくれるね~」


「らってちょっぱご飯ちょーうめえもん♪」


「結婚すっかオイ?」


「や~ん二十歳になるまでまってぇ~ん」


そんな冗談を言い合ってるうちに、エリコは今日の出来事をすっかり忘れた。



エリコは満腹感が全身を包み、非常にリラックスした状態だった。

こんな幸福な感じは何ヶ月ぶりだろう?

少なくともキャバクラで働いてる時はなかった事だ。

「そーいえばちょっぱさ、新しいバイト始めたんでしょ?」


「おうよ~もう一ヶ月になるよ」


「なにやってんの?」


「出会い系サイトのサクラ」


「はぁ~?なにそれー?」

「男とメールのやり取りして金巻上げんのよ」


「それ詐欺くねえ?」


「それいっちゃあんたのキャバだって似たようなもんでしょ、ヤラせる気ゼロのくせに」


「そのキャバをクビになったんっすよ~」


嫌なことを思い出してしまった、とクッションに顔をうずめるエリコ。


「いや、自業自得だし。あんた結構童顔なのによくいままでばれなかったよね」

「そこは経験とメイクの魔法ですよ」


「で、これからどーすんの?」


「しばらくここに置いて♪」


エリコはいつもキャバで上客におねだりをする時の仕草ではにかんだ。


「いいよ~世間に忘れられるまでここにいな」


「あ~そりゃ10年くらいかかるわ」


カスミが嫌な顔一つせずに快諾してくれるのはわかっていたが、やはり嬉しかった。


「そうだエリコ」


「にゅ?」


「あんたうちでバイトしたら?今募集してるよ」


「え~サクラ?」


「うん。あんたのキャバでの実力があればたぶんトップのサクラになれるんじゃねえ?」


「サクラのトップとかマジヤベえし」


キャハハ、と笑ったものの、それも悪くないかもしれない、とエリコは思った。カスミと一緒に働けるのも楽しいし(カスミを以前キャバに誘ったが断られた)ちょっとサクラのバイトにも興味があった。


エリコは翌日、証明写真を撮り、コンビニで履歴書を購入した。

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