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君は僕の事を忘れるだろう

くるり、またくるりとカレンダーに印されたアラビア数字が1から31、ないし30、ある年は28を行き来して行く。

通勤の苦痛を憐れむかのように街頭に咲き乱れる花や、アスファルトから照り返す熱や、油断して痩せた体を突き抜ける北風や、静寂、あるいは眠りを誘う雪は多少の遅れや早足ではあっても順番通りやってくる。

東京に出て来てから何度それらを見送っては迎えを繰り返しただろうか。

ある日些細なきっかけから一人の女と出会った。
すらりとした健康的な四肢に勝ち気な笑顔を見せるその女は、病と戦っていると明るい声で言った。この病を治癒させるには人と触れ合う事だと笑った。

その女は僕の、時に若さゆえの孤独を埋め、不器用な私の空腹を満たし、何度裏のない笑顔を投げ掛けてくれただろうか。

彼女は一見、誰よりも強く、誰よりもよく笑う歩んで来た道に磨かれた美しさを持っていた。
しかし過去にあった一点の、ただ一点の黒い点が心に染み付いていた。

私はあなたな事を忘れるかもしれない、でもそれはあなたのせいじゃないの。私の頭の中にはそれを留めておく海が、波を寄せるのを止めてしまったの。

彼女の言った言葉を医学的に受け止めたものの、心でそれを信じる事は叶わず。僕はただ頷くだけしかできず、彼女の脳裏に僕の想いを焼き付けようとした。

ある日彼女の体に僕の生き様をさらけ出した夜、これがこれからも繰り返し行われる彼女の記憶に残すための儀式としてまたある日がくると信じ、彼女の小さな頭と細い体を支えながら眠った。


しかし彼女の言ったとおり、彼女の記憶が新たに塗り直される事はなかった。
彼女の停止した毎日は、彼女の希望とは裏腹に新しい思い出をその時どきに留めず、過去の事にもせず未来に繋げてくれることもない。
彼女はただ激しく感情を暴れさせ、また停止した日常に戻るだけ。

流れ続ける日常に取り残された僕は、ただ唖然としながら、彼女の脳神経を傷つけた黒い点を呪うばかりだった。

他人の過去を呪う事の虚しさ。
脆い現実き心に怯える臆病さ。
愛情で奇跡を起こすことさえできない非力さ。

何から逃げ出したかったのかもわからぬまま、僕は声を出して泣いた。


今も彼女の日常が、停止したままなのかどうかはわからない。
だけれど残念ながら僕の日常は今だ停止することなく、どんどんあの時の事をあの夜の果てに追いやっていく。

たまに思い出しても、もう涙はでない。

君は僕のことを忘れただろう。

でも後何度記憶が抜け落ちても、
君の名前も、君との思い出は忘れても、僕は君の事を忘れないだろう。


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