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【ウォーロック】第一話「皮翼のクリムト」

※この作品は演出上、一部性描写、残虐な表現を含みます。
閲覧の際は自己責任でお願いいたします。





「俺はエクソシストじゃないんだがね」

そんな台詞と共に男はタバコの煙を吐き出した。
まるで漫画の吹き出しのように空気中に漂う煙が彼の言葉を繰り返して消えた。

「ええ、存知挙げています。しかし・・・」

相手の老人は男の返答をわかっていたかのように刻まれた顔の皺を微動だにさせずに言った。

「我々のような人間が教会に助けを求めるわけにもいかないのです」
「そりゃあまあそうだろうな。散々魔物を食い物にしてきたあんただ。こりゃ天罰って奴じゃないのかい?」
「ははは、返す言葉もありませんな」

相変わらず表情を変えずに老人は言葉だけの笑いを卓上に落とした。

「しかしあなたは女を抱く事でその魔力を維持していると聞きます」
「やだね、恥ずかしい事知ってるじゃないか」
「それはもう、あなたはこの世界じゃ有名ですから」
「人の性癖を噂するもんじゃないぜ。ベッドの上で女にどんな顔すりゃいいのか困っちまう」
「これが、孫の写真です」

そういって老人は懐から一枚のフォトグラフを静かに灰皿の横に置いた。
白くくすんだ煙の中に、まるで薔薇が咲いたかのような美しい女の顔が浮かぶ。

「へえ。奥さん似かい?」
「はい。私に似ず天使のような娘でございます」

男は写真を手に取るとまじまじとそれを見つめた。タバコの煙を吹きかけるのも躊躇われるほど美しい女の顔は、鋭い目つきの老人の血縁とは思えない程柔らかい笑顔で微笑みかけている。

「名前は?」
「アンジェリカと言います」
「悪魔使いが天使の名前を孫に付けたのかよ」
「はい。この子にはこの世界に触れて欲しくありませんでしたから」
「身勝手な話だな」
「あなたにはかないませんな」

老人は表情を変えはしなかったが、照れくさそうに禿げ上がった頭を撫でた。

「この子は私の宝です。魔物にくれてやるつもりはありません」
「だろうな。まあ、あんた普通の人間にしちゃあ今までよくやった方だと思うぜ」
「恐縮です」
「今までよく魂を食いつぶされずに生きてられたもんだ。今までたくさんのデビルサマナーを見てきたけが、皆魂がどす黒く変色してやがる」
「私だって自分の魂が綺麗なものだとは思ってませんよ」
「いやあ、世の中には自分の子供を媒介にする奴だっているんだ」
「私だってそうですよ」

老人はそう言うと、再び硬い皺を結ぶように視線を落とした。

「その子の祖母。つまり私の妻は悪魔に殺されました。もう40年近く前の話になります」
「あんたの名前が売れ始めたころじゃないか」
「はい。その時にその悪魔を蹂躙したのが私の人生の始まりだったのかもしれません」
「なるほど。そこでサマナーに目覚めたわけだ」
「はい」

エドガー・クリムト。
皮翼のクリムトという二つ名で、闇の世界にその名を轟かせた殺し屋がいた。悪魔を召還し人智を超えた力で依頼をこなすその実力はマフィア達の間で畏怖され、また利用された。彼によって壊滅させられた組織は一つや二つではない。

「あんたももう80か。時が立つのは早いもんだな。初めて会った時はインプを使うのにも脂汗流してたのに」
「はっはっは、あの頃はあなたに数秒で這い蹲らされましたな。しかしあなたは本当に変わらない」

クリムトは目の前でタバコを吹かす、30代半ばの男をまじまじと見つめた。40年前とまったく変わらない姿をしたこの男が、人間だとは思えない。だが、彼は人間くさい仕草と悪戯っぽい目で孫娘の写真を眺めている。

「孫は生娘です。私の孫だ、それなりに力も持っているでしょう。抱いていただいてもかまいません、きっとあなたの力になるでしょう」
「おいおい、孫の処女を売るつもりかい?」
「どこの馬の骨かもわからない輩に盗まれるか、生娘のまま悪魔に取り殺されるよりましですよ」
「さっき魔物にくれてやるつもりはないって言ったよな」
「はい」
「俺も似たようなもんだぜ」

男はタバコをもみ消すと、写真をクリムトに返した。
クリムトはそれを受け取ると、初めて顔の皺を緩ませ哀願するような顔で男をまっすぐ見た。

「ウォーロック、あんただけが頼りなんだ。どうかアンジェリカを助けてやってくれ、私はどうなっても構わない」

クリムトは搾り出すようなしわがれた声で言った。だが頭は下げない。その行為がウォーロックに対して無意味なのは知っていたし彼の顔から目を逸らす事はできなかったのだ。自分はもう長くはない、孫娘を託せるこの男の姿を目に焼き付けたかった。

ウォーロック。

本名は知らない。生まれた土地も、年齢も知らない。
ただ彼の名は数百年前からこの世界では知らないものはいない。
好色で酒とタバコが好きで、いい加減な男。
だが、女を抱く事で想像を絶する力を発揮し悪魔さえもこの男を避けて通る。
ウォーロック、それは彼の通り名であると共に彼の職業名でもあった。
デビルサマナーやエクソシストなどの悪魔や神を使役する能力者とは一線を駕するこの世に二人といない職業。
悪魔を踏みつけ天使を犯す。この男なら相手が魔王でもその角をへし折ってくるだろう。

「調子のいい話だな」

ウォーロックは再びタバコに火をつけると煙と共に吐き出した。

「悪魔使いは悪魔に食いつぶされるのが自然の摂理。あんたはそれを知っていてデビルサマナーとして生きてきたはずだろう。対象が孫娘だろうと関係ない、それもあんたの魂の一部じゃないか」
「わかっています、わかっているのです。しかしあの子だけは、あの子だけは何があっても守りたい」
「自分でやれよ」

ウォーロックは火をつけたばかりのタバコを灰皿に捨てて立ち上がった。

「私のストックをあんたに全部やる」

クリムトは血走った目で、唾を飛ばしながら叫んだ。

「あほか。そんな事したら今まであんたに恨み抱いてた悪魔が一斉に襲い掛かってくるぜ」
「構いません、。アンジェリカが助かるなら命など惜しくはない。もうどの道私の体力ではこのストックを扱えん、アンジェリカに取り付いた悪魔と戦う力がないのです」

ウォーロックはクリムトの濁った瞳をしばらく見つめ返した。彼の方がこの老人よりも数百歳年上なはずなのに、彼の瞳には精気が満ち溢れている。

「ウォーロック、頼む・・・」

そういってクリムトはシャツのボタンを引きちぎり、胸をはだけた。老いさらばえて染みと傷だらけのアバラが浮いた胸の中心に、魔方陣の刺青が紫の鈍色を放っている。

「私のまだ使えるストックは"マハエル"これをあんたに引き継ぐ」
「加速の魔か。あんたが皮翼って呼ばれた所以じゃないか」
「そうだ。動くものにならなんだって同化してその移動速度を倍加する。あんたが使えば自転車だってオートバイだって変えられるはずだ」
「オンリーベイグラントか。いいだろう、娘の体とあんたの命で引き受けたぜ」

そう言うとウォーロックは、クリムトの胸の魔方陣に手を当てた。激しい閃光とともにクリムトの顔に苦悶の表情が浮かぶ。

「彼方から此方へ、安行の魔マハエルよ、汝の主を我クリムトからウォーロックに血を受け継がん!」

クリムトはそう絶叫すると閃光の収束とともに脱力し、その場に崩れ落ちた。


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